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札幌高等裁判所 昭和27年(う)123号 判決 1953年9月02日

控訴人 被告人 田中辰吉

弁護人 臼木豊寿

検察官 後藤範之

主文

本件控訴を棄却する。

当審に於ける訴訟費用は全部被告人の負担とする。

理由

弁護人臼木豊寿の控訴趣意は同人提出の控訴趣意書記載の通りである。

控訴趣意第一点について。

刑法第四十八条第二項の規定は併合罪について各罪につき罰金刑を科する場合に於て其最高額を定め且つその範囲内に於て一個の刑を科すべく一種の加重単一刑を規定したものであつて物品税法第二十一条に該法条を適用しない旨規定したのは加重単一刑主義を排し各犯罪行為を客観的数理的に考察して各犯罪行為毎に科刑する法意と解するを相当とし之と同一趣旨にいでた原判決には何等の違法はない。論旨は理由がない。

同第二点について。

物品税法第一条に掲記された課税物品は必ずしも学術上の分類に従い且つ学名を用いたものでないことは同条掲記の物品名を仔細検討することによつて首肯できるのであつて、同税が国民の生活物資であり且つ商品として取引の対照となる物品に対する課税である点から見て取引の通念に照して解釈すべく同条第一種乙類第十四号のネオン管とは管内の空気を排除しネオンガス、アルゴンガス、ヘリウムガス等を封入し之に電流を通じて発光させる放電管であつて図画、文字等を現わし広告用に使用されるものをいい、赤色の発光するもののみに限らず赤色たると、それ以外の色を発光するものたるとを問わないものと解するを相当とする。したがつて之と同趣旨にいでた原判決は正当であつて論旨は理由がない。

又被告人が本件物品は課税物品であること及之が製造は政府に対し所定の申告を要するものであることを知つていた事実は原審に於ける被告人の供述記載によつて認め得るところであり、原判決又此ことを認定しているのであるから所論のような違法はない、論旨は採用できない。

同第三点について。

原判決は別表二十一乃至二十三の製造数量欄記載の全物品を物品税法第一条第一種戍類第六十三号電球類に該当するものと認定し乍ら、同表備考欄に於て二十一の放電管四尺及二十三の放電管十四尺の内五尺を白色と認定していることは所論の通りである。然しながら当審に於ける受命判事の検証調書の記載によれば前記放電管は照明用放電管であり且つその光色は螢光色であることが認めらるるのであるから物品税法施行規則別表(課税物品表)第一種戍類第六十三号電球類(イ)の螢光放電電球に該当することが明かであり、政府に所定の申告をしないでその製造をした被告人の所為は物品税法第十八条第一号後段第一条第一種戍類第六十三号に該当することとなるのである。原判決が前記放電管を白色と認定したのは明に事実の誤認ではあるが前記の理由によつて結局斯る誤認は判決に影響を及ぼすものではないから論旨は理由がない。

同第四点について。

本件記録及原審で調べた証拠によつて明かな被告人の本件犯罪の動機、態容、罪質、回数、数量等その他諸般の事情を綜合すると所論を考慮にいれても原判決の量刑は不当に重いとは認められない。論旨は理由がない。

以上の理由により刑事訴訟法第三百九十六条に基き本件控訴は之を棄却すべく、当審に於ける訴訟費用は同法第百八十一条第一項によりその全部を被告人の負担とし、主文の通り判決する。

(裁判長裁判官 原和雄 裁判官 山崎益男 裁判官 松永信和)

弁護人臼木豊寿の控訴趣意

第一点原判決は附属別表一乃至二十三の事実を各独立した犯罪と認め各別に罰金刑を言渡した。而して之等の事実が併合罪の関係にあることは判示自体によつて明である。尤も物品税法(以下本法と表現する)第二十一条には刑法第四十八条第二項の規定を適用しない旨を規定しているが、これは併合罪関係にある数個の事実について罰金の最高額の制限を受けない趣旨に止り、本来併合罪であるものが併合罪にならないという趣旨ではない。併合罪ならば特別の規定ある場合を除いて併合罪の関係に立つ全事実について一個の刑を言渡すのが原則である。(高松高裁昭和二五年(う)第七八三号事件同二六年三月二十二日の判決参照)

右物品税法第二十一条の趣旨からすれば各事実について各別に罰金刑を言渡すものとすれば罰金額について限度を超過するということが初から起り得ないことであるから、右同法条の存在はむしろ各別に罰金刑を言渡すべきでないことを表わしたものというべきである。原判決が之に反し別表一乃至二十三の事実について各別に罰金刑を言渡したのは違法である。

第二点原判決は附属別表一乃至二十について製造数量欄記載の各数量の全部を本法第一条第一種乙類第十四号のネオン管に該当するものと認定した。しかしネオン管とは真空管内にネオンガスを容れ電流を通ずれば赤色の発光をするものをいう。ネオン管によつては赤色以外の発光をすることがないから赤色以外の発光をするものはネオン管ではない。(原審証人池上栄吉の供述記載)。ネオン管以外にアルゴン管ヘリユウム管等有色発光をするものがあり之等による発光をも一般にネオンと呼んでいるが、之れはネオンが最先に現われたのと語呂の調子から便宜的にいわれる俗称に過ぎない。ネオン管であるか否かは科学的な区別であるから科学的な判別に従うべきであつて右のような便宜的な俗称によつてアルゴン管ヘリユウム管をネオン管とすべきではない。

仮に立法者がアルゴン管、ヘリユウム管をもネオン管だと誤信していたとしても、それは立法者の無智、怠慢による法の不備であるから、その責任を国民に転嫁してはならない。この事は罪刑法定主義の下では当然のことである。原判決の附属別表の一乃至二十備考欄の記載によれば例えば一については緑色五一、六尺、二については色不明のもの六尺、等赤色以外の発光をするもの即ちネオン管でないものの存在することを原判決自体で認めながらその区別をしないで全部をネオン管と認めて処罰したのは科学を無視し、罪刑法定主義の原則に反して事実を誤認したもので明瞭重大な違法といわねばならない。

又若しアルゴン管、ヘリユウム管亦本法上ネオン管に包含されるものとしても、被告人は本法にネオン管とは科学的区別によるネオン管だけに限り、アルゴン管、ヘリユウム管を除外されるものと信じていたものであるから被告人は事実に関して重大な錯誤があつたものというべく、被告人及び弁護人陳述の全趣旨はこの点を含んでいるに拘らず原判決がこれに何等の判断を下さなかつたのは判断の遺脱理由不備の違法がある。

第三点原判決は附属別表二十一乃至二十三の製造数量欄記載の各数量の全部を本法第一種戍類第六十三号の電球類に該当するものと認定した。而して右第六十三号の電球類の内訳は本法施行規則別表六十三で具体的にイ、ロ、ハの三種類に分けて示しているが、原判決附属別表二十一乃至二十三の製品が右施行規則別表六十三のイ、ロに該当しないことはフイラメントを具えていないことで明であり、ロに該当しないことはロ、の表示自体で極めて明白であるから、要は右の製品がハ、に該当するかどうかということになる。ハ、ではイ、ロ、以外の有色電球とあり且つ昼光色及び白色のものを除いている。原判決附属別表二十一乃至二十三の備考欄の記載を見れば二十一の四尺全部及び二十三の内五尺は白色とあるから少くともこの分は除外すべきに拘らず前述のように製造数量全部を本法第一条第一種戍類の電球類に該当するものとし全部について有罪としたのは著しい事実誤認である。

第四点原判決は被告人を合計四万九千七百円の罰金に処したが被告人の性格、思想と経歴、ネオン管製造事業が極めて利潤の薄いこと本法制定当時と時勢が著しく変つていること、他都市と違つて当局の指導、督励がなかつたこと、罰金を科せられても税金は免れないこと、経済的に窮乏していること。

殊に申告しなかつたのは当時の使用人近藤銀次郎が被告人の命を怠つていたことに因ること等諸般の事情に徴すれば原判決の量刑は重過ぎると思料する。

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